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2020年4月20日月曜日

『移ろい、家族』 (デーリー東北新聞 2020年2月19日掲載)

『移ろい、家族』
(デーリー東北新聞 2020年2月19日掲載)



先日、家族が増えた。新しい家族は犬で、犬種はコーギー。
生まれて3カ月ほどのまだ赤ちゃんだ。

夫の実家の犬が昨年他界し、生まれた時からずっと犬と暮らしていた夫は、ある日私に犬が欲しくなったと言った。命を買うことに抵抗があった私は、そもそも犬を飼ったことがないこともあり、戸惑っていた。しかし私がはっきり了承する前に犬が家にやってきた。

旦那はいつもそうだ。自分が決めたことは結局誰の反対も聞かない。結婚の時もなんだか押し切られてしまったように思う。私はあまり結婚したことを今日まで公にしていなかった。何故なら、私が結婚を理由に東京から久慈市に移住したと思われたくないからだ。
私は自分の意思で此処に住むと決めたのだ。

確かに、夫の収入があるから観光海女や北三陸のPRといった不安定な仕事に挑戦していけるというのはあるが、銀行口座も財布も一緒にせずに今はなんとか生活できている。当時、彼だった旦那は、いつの間にか私の部屋に住み着き、私が2人で住むアパートをまだ先の夢のように調べ始めた頃、迷いなく契約してしまった。プロポーズらしいものもなく、いつの間にか結婚することになっていた。

そうして一緒になってもうすぐ2年がたつ。とはいえ、一緒の生活は悪くない。変わり者同士、うまくやれていると思う。結婚すればすぐ子どもがどうだと言う大人がたくさんいて嫌になるが、そもそも望むか望まないかはプライベートであり、望んだとしてポンとできる訳ではないのだから、軽く言わないでほしい。

私は『家族』というものは遷移的で不思議な流れの中にあるように思う。自分で選択することもあるが、流れ着くようにそうなっていることの方が多い。
私は生まれる前に母や父を決めた訳ではない。生まれた時、色白で目の大きい女性を母と言われ、色黒の顔の怖い男を父と言われ、天然パーマのやかましい女の子は姉と教わった。そのうち、自分にそっくりな顔をした弟ができた。誰一人として私が望んだメンバーではなかったが、悪くはなかった。それはとても幸運なことだった。

今、私は実家を出て、他人だった人と夫婦になり、犬を飼った。2人と1匹の生活。正直
最初は怖かったが、家に迎え入れてしまえば愛着が湧くものだ。これが欲目というものか
。寝ている時がとてもかわいい。

昼間は暴れて噛み付くから少々困る。本によると、乳歯がかゆいのだそうだ。犬にも乳歯と永久歯があることを初めて知った。こんな風に犬が私に教えてくれることが、これからもさまざまあるのだろう。

そして、今月末には実の姉が結婚式をする。私より年下の義兄さんはPCゲームが得意だ。もちろん、私が決めた相手ではないが、悪くはないと思っている。いつか、夫婦で犬に会いに来てほしいな。その時までに噛みつかないようにしつけなくては。変わり続ける家族という関係が、これからも良い方向に流れ着いていきますように。

(ふじおり・ジュン=北三陸観光大使、久慈市在住)

2020年4月15日水曜日

『子年について』 (デーリー東北新聞 2020年1月15日掲載)

『子年について』
(デーリー東北新聞 2020年1月15日掲載)



新たな年が始まった。
今年は十二支の初めの子年。
新しいスタートという情調がさらに際立つ。

12月の中旬、とある飲食店のマスターと年賀状の話になった。
マスターは「うちは飲食店だからネズミはちょっと縁起が悪い。表にもネズミのイラストが無いものを買った」と言った。

なるほど。
私は観光のPRを行う会社を経営しているため、毎年お世話になった方々に会社から年賀状を送る。飲食関係者もいるので気を付けなければならないと思った。私も表にネズミのイラストが無い年賀状を購入し、裏のデザインは悩んでハリネズミのイラストにした。ハリネズミはモグラの仲間らしい。

ネズミは飲食店以外でも嫌われ者なのか、干支をイメージした商品を販売するさまざまなブランドが、なぜか今年は招き猫のモデルにすることが多い。G-shockの限定腕時計もお年玉切手シートもワコールの干支デザイン下着も今年は招き猫である。ネズミを避けるとて、なぜ強敵である猫を代替にしてしまったのか謎ではあるが、少し干支のネズミがかわいそうになってくる。

ネズミにも縁起があるはずと思い調べてみると、ネズミは子をたくさん産むため子孫繁栄や転じて何事も繁栄し金運がアップすると言われているそうだ。昔話『ネズミの餅つき(おむすびころりん)』ではネズミが地中の穴の中で餅をついており、金や宝石をたくさん持っていた。まさにこれがネズミの縁起イメージそのものなのである。

話は変わるが、餅といえば、東京出身の私は久慈市に移住した四年前に初めて煉りくるみをつけた餅を食べた。こちらではスタンダードな食べ方と聞いて驚いたものだ。甘くてクリーミーな味わいにすぐに虜になり、今年のお正月にもいただいた。

「東京の方では餅はどう食べるの?」と聞かれることも多い。スタンダードなのは醤油と海苔の磯辺餅か、きな粉をまぶしたものだろう。あんこや納豆というのもある。それから大根おろしと醤油と七味で食べる辛み餅が好きな人もいる。辛み餅は北三陸地域ではあまり食べないようで、話すと驚かれる。

大根おろしといえば、ネズミの話に戻るが大根とネズミが一緒に描かれたイラストや置物も縁起物とされるらしい。大黒様の使いとされるネズミは「大黒ネズミ=大根食うネズミ」という語呂合わせから来るのだとか。

イギリスでは、生涯同じパートナーと過ごすネズミにあやかって、結婚式会場などに飾るウエディングマウスというぬいぐるみがあるそうだ。世界的に有名なキャラクターにもネズミをモチーフにしたものが数多くある。

ちなみに北限の海女さんたちが「ウミネズミ」と呼ぶ生き物はアメフラシ(ウミウシの大きい種類)を指す。海女さんたちの中では見た目が嫌いという人が多いが私は可愛いと思っている。

嫌われたり好かれたりのネズミの年だが、さて、どんな一年になるのか。ネズミは「=寝ず身」との語呂合わせから「寝ずに働き財を集める」という意味もある。私としてはそのくらいにお仕事が舞い込むとうれしい。
 

(ふじおり・ジュン=北三陸観光大使、久慈市在住)


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