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2020年4月10日金曜日

『アイドルと久慈まめぶ部屋』 (デーリー東北新聞 2019年8月21日掲載)

『アイドルと久慈まめぶ部屋』
(デーリー東北新聞 2019年8月21日掲載)



 アイドルを応援していた時期が何度かある。私の場合、メディア露出が多い人気者ではなく、ライブアイドルと呼ばれるような、荒削りで売れたい気持ちが強く、なりふり構わ
ない姿のグループを好きになる傾向にある。

そういったアイドルの魅力は、社会の中でもがいている憤りを持った自分と重ねて応援できるところだろうか。ライブで拳を突き上げる時、大声で歌う時、ストレスから解放され、明日を生きる元気をもらえる。「あなたが頑張っているから、私も頑張れる」という同調だ。歌やダンスだけで言えば、一流のパフォーマンスを見る方が感動は大きい。しかしそこに、「応援したい」という気持ちは湧かない。同調できる余地がなく、「頑張れ」というのもおこがましく感じるからだ。

同様に応援していたアイドルに人気が出ると気持ちが冷めてしまうというのはよく聞く話であり、事実私もその一人だ。人気が出ると曲調や歌詞の感じが大衆向けに変わったり、一部から反感を買いそうな思い切ったパフォーマンスがなくなってしまうこともよくある。それにより好きと感じなくなるのもあるが、何より自分は抜け出せていないわだかまりや報われない気持ちを抱えているままであるため、先に認められたアイドルに置いていかれてしまったような空虚感さえ持つ。

もちろんそこまで頑張ってきたアイドルには敬意を持つのだが、シンパシーは感じられなくなるのだ。私はいつもそこでファンを辞めてしまう。そして、テレビに映るかつて応援していたアイドルを見ては「ああ、売れたな。凄いな」などとどこか一線を引いて見ている。

「売れてから応援できないのは本物のファンじゃない」などと言われることもあるが、仕方がない。アンチ活動などは絶対にしないので許してほしいところだ(誰かに許してもらう必要もないが)。

最近はアイドルを追いかけていないのだが、私の応援したい人のスタンスは変わってい
ない。今頑張っていて、まだ大きく認められていなくて、もがいている人。北三陸はそう
いう人の宝庫である。仕事柄、さまざまな人の挑戦を見てきた。
B-1グランプリin明石に出展する久慈まめぶ 部屋も応援したくなる要素が詰まっている団体の一つである。

朝ドラ「あまちゃん」よろしく、派手さの無いまめぶ汁を片手に久慈市を全国に広めようと頑張っているのだ。お肉や揚げ物、ご当地焼きそばがひしめく会場で、くるみと黒糖入りの小麦団子(まめぶ )が入った野菜たっぷりの汁物を提供する。目立たないが個性はある。さらには一途に郷土料理で勝負する心意気も良い。

しかし今、兵庫県明石市までのスタッフの旅費や材料運搬費などが足りない危機に面している。そこでクラウドファンディングを行ない寄付を集めることにした。このクラウドファンディングは私が担当している。これがなかなか厳しい状況だ。是非とも「久慈まめぶ 部屋 CAMPFIRE」を検索してみてほしい。

私はアイドルでは無いが、共感してくれる方がいたらいいなと思う。私も今、もがいて頑張っているから。

(ふじおり・ジュン=北三陸観光大使、久慈市在住)


(著作権使用許可申請許諾取得済み 転用禁止)

2020年4月6日月曜日

『多様な生き方』(デーリー東北新聞 2019年7月17日掲載)

『多様な生き方』(デーリー東北新聞 2019年7月17日掲載)



 「この地域に一生住む覚悟ですか?」。私のように地方移住をした人がよく聞か
れる質問である。これにいつもモヤモヤさせられている。

特に別の地域に住む予定も東京に帰るつもりもないし、50歳過ぎても観光海女をやりたいという望みはある。しかし舞台芝居を続けていたらいきなり海女に転身することとなったように、周りの状況や考え方は日々変わっていくと思う。

臨機応変に自分のその時のベストな生き方をしていきたい私は自分の可能性を決め付けた
くない。なので「分かりません。でも今はここに住んでいます」と答えることにしてる。

そもそも、誰もが地域に自分を縛らなくていいはずである。『居住移転の自由』は憲法に定められている。地元暮らしが長いお年寄りも、そこに暮らし続けなければならないわけではないのだ。不便を感じたら交通手段や病院などが多い都会に住んだっていい。

とはいえ、仕事や家族、家などさまざまな事情があり、おのずと「この地域で暮らさなければならない」という状態に陥るのだろう。出張の多い仕事や学業、結婚のため、あるいは若者が都会へ出て行く他は、居住地を移す人が少ないのが現状だ。

地方移住をした私としては、「もっと自由に住む場所を選ぶことができたらいいのに」と思う。令和は『個人の時代』とも称されるように多様な生き方ができるようになった。都会には『アドレスホッパー』と言われる人たちがいる。特定の場所に住まず、ゲストハウスや友人宅など日替わりの場所に帰る人たちのことだ。

アドレスホッパーの人も仕事があるため、ほとんどの人が所属する会社のある都会で生
活している。中にはフリーランスでウェブ関係の仕事などをしている人もいる。そういう生き方なら、地方でもできるかもしれない。地方のゲストハウスなど安い宿泊施設はもってこいだ。フリータータイプの方であれば住み込みの旅館バイトなどもいいだろう。

YouTuberは今やポピュラーになったが、動画の生配信アプリを使って稼ぐ人や、SNSを使ってキャラクターを売ったり、中には人におごられることを生業とする人も現れた。こうした新しい働き方は必ずしも都会でなければできない生き方ではない。むしろ、地方の方が差別化できて有利なことだってある。多様化した現代では、もう居住地のあり方も働き方も今までの常識とは変わってくるだろう。

その中で東京一極集中とならないように地方が対抗するとすれば、居住地の移動をもっと自由にできる社会を目指すというのはどうだろうか。地方移住をしても一生住む覚悟までしなくてもいいし、地元を出て都会に行く人も同じだ。地元に戻ってきてもいいし、また違う地域に住んでもいい。居住地を選ぶ自由がもっと自然になればいい。日本中、いや世界中を旅するインフルエンサーも今からもっと生まれるだろう。

 新しい仕事や住まい方について改めて未来を想像してみよう。北三陸の特徴を生
かした生き方を考えている私は結局、未来も北三陸にいるようだ。


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